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低体温療法のススメ [医療現場]

低体温療法(脳低温療法)という治療がある。
一般的には、心肺停止の患者が蘇生したあと、その脳の機能を温存させ、時間が経って回復してきた時に少しでも脳の機能を残しておこうとする医療行為だ。

ここで断っておかなければならないのは、心肺停止から蘇生して低体温療法をすれば、誰もが後遺症なしに復活することを約束するものではない、ということ。
そもそも心肺停止に陥る段階で体は既に瀕死の状態であり、その治療が完遂されなければならないこと、また、脳のダメージが少ない内に低体温療法を行わなければそれまでに脳はダメージを受けてしまうなど、完全復活までには様々な関門をクリアしなければならない。
適応とするにはどういう患者が良いのか、年齢やADLは?など、適応の幅を決めるのもまた重要である。

当院でも、そろそろ低温療法を始めようかというところで、その適応について悩むことになる。
様々な診療科が関わりうるだけに、救急だけで決めきれない部分もあり、悩ましいところだ。

違法薬物について [医療現場]

またまたやってきましたこの季節。

夏と言えば湘南!
そう、湘南の海は、夏になると県内外から人が集まり、特にここぞとばかり羽目を外す若者が一気に増える季節でもあります。

毎年、この季節になると日頃遭遇することの少ない患者さんたちに会います。
水着だけで砂まみれの酔っ払い。
時に暴行事件が絡んでいたり、違法薬物が絡んでいたり、様々な病歴の患者さんたちです。
たいてい、警察のお世話になる事が多いです。

ちなみに、違法薬物が絡んでいたら通報ですから…。

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刑事訴訟法239条
第二百三十九条  何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
○2  官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
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判例 平成17年07月19日 第一小法廷決定 平成17年(あ)第202号 覚せい剤取締法違反被告事件

要旨:
 救急患者から承諾を得ずに尿を採取して薬物検査をした医師の通報を受けて警察官が押収した上記患者の尿につき,その入手過程に違法はないとされた事例

内容:  件名 覚せい剤取締法違反被告事件 (最高裁判所 平成17年(あ)第202号 平成17年07月19日 第一小法廷決定 棄却)

 原審 東京高等裁判所 (平成16年(う)第2179号)
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基本的に違法行為を発見した場合は誰もが通報していいので…。
医師の守秘義務ってのは、違法行為に対しては無効です。
最高裁の判例でも出ています。

ということで、湘南の海で楽しまれるときは、節度を持って楽しんでくださいね。


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来院される患者のトリアージ [医療現場]

断らない病院に勤めていると、救急外来に多数の患者が押し寄せてくる。
特に今の季節は熱が出たらインフルエンザを心配し、嘔吐・下痢ではノロウイルスを心配に来院される患者が多い。基本的には救急受診をする必要は無く、自宅療養が公衆衛生的にも感染拡大の予防に良いのだが、様々な問題(メディアによる扇動、個人の不安、施設としてのリスクマネジメントなど)から受診されることが多い。

そうなると、救急外来にありながら、本当に緊急性がある患者と基本的に緊急性がない患者が入り交じることになり、外来の待合は受診希望の患者でごった返す。
それが待ち時間の延長に繋がり、診療開始・治療開始の遅延に繋がる。
医師一人一人が抱える患者が多くなればなるほど、患者にかける手間は減らさざるを得ず、結果的に誤診や見逃し、診断遅延に繋がるリスクを高める。

その限られた医療資源を有効に活用するためにも、トリアージと言うものが有効に働くことがある。
受付をされた患者を看護師がトリアージ(篩い分け)を行い、緊急度を判別していく。
医師は緊急度に応じて診察順位を変更し、医療資源の再分配を行う。
そうすることで、特に必要な患者には集中的に、そうでない患者には時間に余裕を待たせながら診療を行うことができる。

ただ、結局はトリアージをしても来院する患者が多ければそれらに対応せざるを得ず、医療資源とのバランスに不均衡が生じれば、先に挙げた医療現場での遅延が起きる。
それらを解消するには、一病院だけで解決を図るのではなく、地域の他医療機関との連携が鍵となるだろう。

今後は一医療機関でまとまらず、地域の医療機関との連携を図り、場合によっては受診された患者のトリアージ結果で他院へ紹介するなどの対応も検討されるべきかも知れない。
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100歳超の手術 [医療現場]

先日、100歳を超えている人が頭の手術を受けた。

受診の1ヶ月前に転倒し、数日前にも転倒し、その後から右の手足が麻痺している、
として家族に連れられやってきた。

診察では明らかな右の手足に力が入らない。
しかし、頭はしっかりしていて、話していることも理解できる。
元々は自分で歩いている元気な高齢者だ。

頭のCTを撮ると、脳を圧迫する出血が頭蓋骨の中に見られた。
しかし、それは緩徐に進行する「慢性硬膜下血腫」と言うもの。
「元々元気だった高齢者なので、手術をしたら力も戻るかも知れない。」
そう思い、脳神経外科医に相談した。


ほとんどの人は、100歳を超えたら手術なんてしないと思うだろう。
おそらく、ほとんどの医療機関でも80歳を超えたら手術なんてやりたがらない。
でも、ここには可能性のある患者さんには精一杯尽くしたいと思う医者が集まっている。
「数日前まで歩けていたなら、この血腫を取り除けば歩けるようになる可能性がある!」
そう思った脳外科医も家族に手術をすることを勧めた。
もちろん、手術に伴う危険性も併せて説明してだ。

高齢者になれば、手術の手技に依らなくてもいつ心臓が止まってもおかしくはない。
それでも、手術中に心臓が止まれば、手術をした医者は悪者扱いされてしまう。
医者にとっても賭けみたいなもんだ。
 #だから高齢者に侵襲的な治療をしない医療機関が多い。。。

そんな危険を抱えながらも、脳神経外科医は手術を行った。
そして、入院し、リハビリを続けたその患者は、若干見守りや支えは必要なものの、
自分の足で歩いて退院した。

退院の時、手術を勧めて良かったな、と思った。

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飲酒 [医療現場]

救急患者としてしばしばアルコール絡みで患者が運ばれてくる。

・飲酒して転倒して怪我した
・飲酒して不穏になっている
・飲酒して失神した
・飲酒してお腹を痛がってる
・飲酒して痙攣を起こしている
・飲酒して喧嘩して刺された
などなど…。

普通の人が、楽しく飲む程度には良いんですけどね、
飲み過ぎたり、前後不覚になって怪我をする様なことになることは避けて貰いたいとしばしば思います。

そして、アルコールで問題になるのはアルコール依存。
本人が自覚がないうちに依存症になり、その結果自分の精神や肉体を傷つけるだけでなく、周囲の人たちも傷つけてしまう不幸な病気です。
気がついた時にはもう手遅れであることが多く、本人が自殺してしまうこともあったり、お酒が抜けると様々な精神症状を呈したりと、かなり手がかかります。

大事な人を傷つけないためにも、程々にしましょうね。
タグ:救急 飲酒
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救急出動を断ることの難しさ [医療現場]

日々増える救急要請に、要請から現場着までにかかる全国の平均時間が年々増加している。
高齢社会による罹患率の増加や、タクシー代わりに呼ぶモラルの低下など様々な問題があるだろう。
その結果、本来なら救急車で速やかに搬送されるべき傷病者に辿り着くまでに時間を要してしまい、救命できていないのではないかと危惧されている。
それらの問題に対して、東京消防庁を始め、各地の消防も様々な対策を講じているが、なかなか決定的なことはない。

その対策の一つに出動要請に応じて救急車を出すかどうか判断したり、実際に搬送するかどうかを現場で判断したりする「搬送トリアージ」がされている地域もある。CA3B0002.jpg
出動させる回数が減れば、当然搬送が必要な傷病者に救急車を用いる事ができる様になり、画期的なシステムのように思われる。しかし、そのトリアージの難しさを露呈させた事件があった。

2011年秋に山形大の2年生(当時19歳)が体調不良を訴え救急要請するも、電話を受けた司令室職員は「自力で歩行できる」と言った大学生に対して「タクシーで行けますか?」とタクシーで医療機関を受診することを促し、結局翌日に自宅で死亡、後日遺体で発見された。(現在、裁判所で係争中)

おそらくは若いから「歩ける」と聞いた司令室職員は「軽症」と捉えたのだろう。
結果的にはそれは軽症ではなかった事になるのだろう。

日常の診療の中でも、診療前の看護師によるトリアージでも、様々な場面で本来緊急度が高い患者のトリアージ・レベルが低く見積もられる「アンダー・トリアージ」というのは起きている。
ましてや、電話口だけでのトリアージはなかなか困難だ。

結果的に若い命が失われたのは、残念の極みである。
統計学的にはアンダー・トリアージは必然であるが、その低く見積もられてしまうのを極力回避する努力もトリアージを実施する側には求められる。
特に電話だけでの問診は不確定性が高く、診療に従事する医療従事者ならおそらくほとんどの者が「医療機関で診察を受けて貰ってね」と言うはずである。
救急要請をすると言うことはよっぽどであることが多く、その前提から見て「明らかにタクシー代わり」と思われる要請以外は出動するのが望ましいのではないかと思ってしまう。

医療従事者である救急隊はもちろん、人命に対して強い使命感を持って従事していると思っている。
それ故、今回の事例を反省症例として、今後の人命救助に役立てて貰いたいと切に願う。

残された時間 [医療現場]

60代のの独り暮らしの女性の意識の状態がかなり悪いとして救急外来に運ばれた。
彼女は1年程前に発見された乳がんの手術と化学療法を受け、ある程度は良くなっていたものの、肝臓に転移し、今後の治療をどうするか主治医と相談しているところだった。

少し離れて住む息子夫婦に発見され、救急搬送されたその女性は、明らかに正常の状態ではないことが見て取れた。
そして、頭のCTで脳にも転移していることが明らかになった。

主治医からは「余命半年」と言われていたと言う。
そんな中でも、何かしらの治療も考慮されていた。
少しでも永く生きるために…。

でも、脳にまで転移して、全身の状態がかなり悪い状態にまでなっている今、果たして治療を続けることがいいことなのだろうか?


何が正しいかは分からない。
恐らく正しいのは、
遺された家族が後悔しない方法、だ。
でも、色んなことを考えるだけ考えたって、きっと後で何かしらの後悔の念を抱く。

ただ、そろそろ違う視点から考えていく必要があると思う。
治療して病気と闘うのではなく、
病気と共に残りの時間を大事に生きる、という視点。

病気と闘い、苦悩する日々から心を解き放てば、きっと吹っ切れる。
その上で、残された時間を大事な人たちと過ごす。
それがきっとこれから選ぶべき道ではないだろうか?

必ず訪れる、そしていよいよ目前に迫った母親の死を受け入れるために、
息子に残された時間の使い方を家族で相談するよう促した。
そうすることが、少し離れた立場から見ることができる医者の使命でもあると思っている。
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