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隣人のCPA [医学・医療]

勤務がなくて、自己学習をしていた午後。自宅の目の前に救急車が止まった。
妻が「あら、家の前に救急車が…」と声をかけてきた。

窓から外を見ると、救急隊がテキパキと傷病者を迎えに行く準備をしていた。
と、いきなり救急隊員の動きが慌ただしくなった。
その動きは明らかに「現着時CPA」だった。
 ※現着時CPA
  救急要請の段階では心肺停止状態(CPA)とは分からない状態で
  現場に到着して初めてCPAであったと判明する症例。
  救急隊員にとっては、CPAと分かっていれば蘇生処置のための
  道具を予め用意して置くものだが、突然判明するとかなり焦る。
そして、僕もとっさに家を飛び出し、向かいの家に飛び込んでいた。

家の主に「おじゃまします」と声をかけ、救急隊員に声をかける。
隊長は「えっ?!何で先生がここに?!」とかなり驚いている。
「いや、目の前が自宅なもんで…」と答えて傷病者を見た。
明らかに心肺停止状態だ。すぐに心臓マッサージを開始した。

隊長はMCドクターに連絡を入れる。
 ※MCドクター
  救急隊員の医療活動を担保するための医師。
  MC指導医というMC協議会に登録されている医師が
  必要に応じて救急隊員に電話で指示を出すこともある。
隊長は「そちらの○○先生が現場にいるんです。特定行為の指示をお願いします」とMCドクターに伝え、MCドクターから「気管挿管」と「静脈路確保」の指示が出された。

現場に医者が居るからと言って、必ずしもその人に何でもさせて良いとは限らない。それが本当に医者かどうか分からない上、その医者が正しい処置をする保証もないからだ。
しかし、そこは勝手知ったる間柄であり、気管挿管も静脈路確保も僕がした。
そして救急車に乗せてから、薬剤を投与する。
2回投与したところで、自己心拍が再開した。
程なく病院に到着し、同僚のMCドクターに引き継いだ。

心肺停止になった原因は不明だが、蘇生後脳症として内科に入院となった。
後で知った話だが「本人と家族との話し合いでは延命治療はしない方針だった」とのこと。
蘇生させてしまったことが良かったのだろうか?と思い悩んだ。
はたして、そのお婆ちゃんは、翌日の昼に亡くなった。

僕は仕事で居なかったが、自宅にいた妻から連絡が入った。
「遠くにいた息子が駆けつけて、まだ息がある内に会うことができて良かった。感謝している」と言っていた、と。

その連絡を聞いて、胸が熱くなった。
今まで、高齢者の心肺停止に対して消極的だった。
まず助からないのが目に見えているからだ。
それでも、少しの時間だけでも家族と最期の時間を過ごして貰う事は、それだけでも意味があることだと言うことを改めて強く感じだ症例だった。
これからの高齢者の心肺停止に対して、対応がまた少し変化しそうだ。
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